2021/10/17

銀座物語

 時々ですが、京橋の画廊羅針盤さんで手伝いをしています。それで時々、東京駅から銀座辺りをおつかいがてら歩いたりします。

先日、久々に銀座を歩いたら、何故か海外に来た様な奇妙な気分になりました。おしゃれなドでかいビルが奇妙に見え、何か違和感を覚えました。例えるなら、お芝居のセットの様です。私は台本を忘れてきてしまった役者のような心細さで歩きました。これまで感じたことのない感覚でした。

高級店が並ぶ街中を歩きながら、不用意に劣等感を刺激され、エネルギーを消耗しているのを感じました。

私は、ブランドの服で全身を固める知人を思い出していました。私はその知人に対して常々感じていた感情が、劣等感であったことにふと気付きました。

私はこの拭えぬような不快感に、長年悩まされていました。

その知人の、甲冑のような服の着こなしは、全く中身に見合わず滑稽に見えて、浅ましく、内心軽蔑さえしていました。人生かけて虚勢を張っているのがあからさまに伝わってきました。と同時に、ある種の羨ましさと劣等感を覚えるという複雑な感情を持っていました。

長年会っていない、これからも会うことは無いであろう知人に、こんな複雑な感情を持ち続けるなんて、まったくどうかしています。

もうウンザリするほどじゅうぶん味わった、

いい加減に断ち切ろう…小さく決意しました。


結局は、いつもの古い喫茶店にたどり着き、ここがいちばん落ち着く…とひと息つきました。新しい店を開拓するなどの冒険をしないことに失望しつつも、結局は気楽さを選択していることに気付きました。結局のところ、私は気楽で居たいのだな、と思い、柔らかい綿の肌着をまとうような気持ちで、コーヒーをすすりました。

…あの「甲冑の知人」は、「私の中にいる偽物」の象徴なんじゃないか。首根っこを掴んだところで、次の場所に向かいました。