夏の終りに、JR有楽町駅のホームで
白杖の青年を見かけた。
迷ってそうだったので、
「どちらまでですか」と声を掛けたら、
「地下鉄銀座駅3番出口です」と。
銀座駅はそう詳しくないが、
中央通りまで行けば何とかなるかと思い、
道案内した。
私の右腕のひじを掴んでもらい、
一緒に歩いた。(道案内に緊張した私の腕は汗をかいたから、掴んでて気持ち悪かったろう。)
ふと、私は映画「アメリ」のワンシーンを思い出した。
アメリが全盲の老紳士に景色を伝えながら街を半ば強引に案内するというシーン。早歩きというところがまたコミカルで、老紳士の感激ぶりがキュートで見ていて幸せな気持ちになるシーンだ。
「目の前にデパートのマルイがあってねぇ、大きくて立派なビルです」
何を思ったのか私はタメ口混じりに
銀座の景色を語り出した。
「へぇ、銀座はデパートが多いんですねぇ」
白杖の青年は私の説明に相づちを打ってくれた。
調子に乗った私は、更に銀座の風景を伝えた。
○○ってゆう高級なブランドの…
お店がいっぱいで〜…
珈琲屋さん、スペイン料理屋さん…、この辺は色んな食べ物屋さんがあります
土曜日だから人がいっぱいです
歩行者天国です!
…
風景の説明は調子付いていたが、
案の定、私は道を間違えた。
スマートフォンの地図を広げた。
「ちょっと待っててね、私もそう詳しくないんでね、待っててね今地図を…えっと…」
青年は心細かったであろう。
案内人が迷っているのだから。
何度も何度も
「地下鉄銀座駅3番出口です」と念を押してきた。
すまない…。
困っている私たちに「どちらまで?」と声を掛けてくださった人もあったが、分からなかったようでゴメンと去って行かれた。
(けど、気にかけてくれた事が嬉しかった。)
結局スマートフォンのおかげで、
少し道を戻ると直ぐに目的地まで辿り着いた。
青年も私もホッとした。
「あ〜良かった〜!」
「あ、ありましたか?良かった…!」
と共に喜んだ。
さて、
青年を送り届けたまでは良かったが、私が道案内という思わぬ寄り道をしてしまったので、「夕方からの約束に間に合わないのでは…」と、ふと芥川龍之介「トロッコ」の少年のような心細さに見舞われながらビルの外に出たら、あ!っと小さく叫んでしまった。
青年の目的地だったビルの右斜め前に、
秋にお世話になる画廊のビルがあったのだ。
なんだ〜!ここだったのか〜!
道案内したつもりが、白杖の青年に道案内されてしまっていたようだ。
(おかげで後日の搬出がスムーズに済んだ。かなり有難かった)
なんとも不思議……。
道を戻りながら、
あの青年は、私の絵を見ることは無いんだろうな…とか思いながら、友達との約束に急いだ。
青年の脳裏に、銀座の情景を瑞々しく描けたなら…なんちゃって…言葉の表現の幅を拡げるのもまた画業かしら、なんて素敵なことを考えたりした。
友達との約束の時間には、
じゅうぶん間に合った。