2017/02/18

かえりみち




楽しかった落語会の帰り道、
ふわふわした幸せな気持ちで、
根津から上野に向かって歩いていました。

この辺りは、私のお決まりの散歩道なので、
暗い夜道も迷わずすたこら歩けたのですが、
さすがに夜の上野公園は人も少なく静かで、
もののけが出そうな雰囲気でした。

上野公園の交番辺りに差し掛かったころ、
数十メートル先の暗闇から、
60代くらいの女性が歩いてきました。
私たちは、お互いの存在を確認し、
その女性も私も、足をピタリと止めました。

20メートルくらい離れていたでしょうか。
なんとなく、異様な感じがしました。

その初老の女性は、私に
「上野駅はどこですか」と聞いてきました。

「すぐ、そこですよ!」と、
私は元気な調子で答えました。
落ち着いて答えてしまうと、
この女性の雰囲気に飲まれそうな気がしました。

初老の女性はさらに、こう聞いてきました。
「上野駅はどこですか、どこから行くのが、一番近いですか?
色々道がありますよねえ、、、」

「もう、すぐ!そこです!まっすぐ行くのが近いです!」
私は公園に響くような声で回答し、
ジェスチャーで、「あっち!!!!」と、
駅の方向を指さしました。

その勢いに促されるように、
初老の女性は駅に向かって歩き出したのですが、
なにせ私も上野駅に向かっているので、
その女性のあとを
やはり20メートルほどの距離を保ちながら、
そぞろ歩きしました。

初老の女性は、後ろを歩く私が気になるようで、
チラチラと振り返り、また話しかけてきました。
「行っても行っても、遠くに感じる・・!」
まるで駄々っ子のようにグズグズとした調子でした。
駅はもうすぐなのに・・!

私は「もう、そこです!!すぐ!そこ!」
と、励ましとも、冷たさとも取れる調子で声をかけ、
その声の勢いに乗り、初老の女性を一気に追い抜きました。

「歩いても歩いてもたどりつけない~・・・」
グズグズとした調子の嘆きを
背中で聞き終えるころ、
上野駅公園口の明るい入口が見えてきました。
安堵とともに、信号待ちがもどかしく、
今度は私がチラチラと後方をうかがってしまいました。

信号をそそくさと渡り、
改札を通過して、ようやく現実に帰る・・とほっとしました。

羅生門に登場する老婆が小ぎれいになって現代にやって来た、
みたいな女性でした。(失礼!)
あの女性は、
本当は駅にたどり着きたくなかったのではないかしら
帰りたくなかったのではないか

あんたもハクビシンの化身か


上野ではよく、へんなひとに声掛けされます。