楽しかった落語会の帰り道、
ふわふわした幸せな気持ちで、
根津から上野に向かって歩いていました。
この辺りは、私のお決まりの散歩道なので、
暗い夜道も迷わずすたこら歩けたのですが、
さすがに夜の上野公園は人も少なく静かで、
もののけが出そうな雰囲気でした。
上野公園の交番辺りに差し掛かったころ、
数十メートル先の暗闇から、
60代くらいの女性が歩いてきました。
私たちは、お互いの存在を確認し、
その女性も私も、足をピタリと止めました。
20メートルくらい離れていたでしょうか。
なんとなく、異様な感じがしました。
その初老の女性は、私に
「上野駅はどこですか」と聞いてきました。
「すぐ、そこですよ!」と、
私は元気な調子で答えました。
落ち着いて答えてしまうと、
この女性の雰囲気に飲まれそうな気がしました。
初老の女性はさらに、こう聞いてきました。
「上野駅はどこですか、どこから行くのが、一番近いですか?
色々道がありますよねえ、、、」
「もう、すぐ!そこです!まっすぐ行くのが近いです!」
私は公園に響くような声で回答し、
ジェスチャーで、「あっち!!!!」と、
駅の方向を指さしました。
その勢いに促されるように、
初老の女性は駅に向かって歩き出したのですが、
なにせ私も上野駅に向かっているので、
その女性のあとを
やはり20メートルほどの距離を保ちながら、
そぞろ歩きしました。
初老の女性は、後ろを歩く私が気になるようで、
チラチラと振り返り、また話しかけてきました。
「行っても行っても、遠くに感じる・・!」
まるで駄々っ子のようにグズグズとした調子でした。
駅はもうすぐなのに・・!
私は「もう、そこです!!すぐ!そこ!」
と、励ましとも、冷たさとも取れる調子で声をかけ、
その声の勢いに乗り、初老の女性を一気に追い抜きました。
「歩いても歩いてもたどりつけない~・・・」
グズグズとした調子の嘆きを
背中で聞き終えるころ、
上野駅公園口の明るい入口が見えてきました。
安堵とともに、信号待ちがもどかしく、
今度は私がチラチラと後方をうかがってしまいました。
信号をそそくさと渡り、
改札を通過して、ようやく現実に帰る・・とほっとしました。
羅生門に登場する老婆が小ぎれいになって現代にやって来た、
みたいな女性でした。(失礼!)
あの女性は、
本当は駅にたどり着きたくなかったのではないかしら
帰りたくなかったのではないか
あんたもハクビシンの化身か
上野ではよく、へんなひとに声掛けされます。